ウメハラと中島悠に学ぶ「勝ち続ける意志力」〜すべてのスピードキューバーに捧ぐ〜
とうとうブログの更新が3ヶ月も離れてしまった。
ごきげんよう。おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。
いやはや、この頃はルービックキューブよりもむしろ別名義でやっている音楽活動の方が忙しくなってしまい、このブログに感ける暇が無かった。忙しかったとはいえこれはただの怠慢である。ブログの更新を心待ちにしている人には心から謝りたい。
さて、謝罪ばかり書いているとテーマを見失いそうなので、早速本題に入りたい。
私はかれこれ8年ほど、スピードキューブの界隈に居る。
幸いにも2回日本チャンピオンになることが出来、世界大会でも3位入賞を果たし、さらには幼少期からの夢だったゴールデンタイムのバラエティ番組出演も叶った。
しかしながら、これらはすべて「そうありたい」と思ってなったものではない。
もっと言うと、私は「勝ちたい」と思ってスピードキューブをやった訳ではなかったのだ。
大会で勝つというよりは、「人より速く、ルービックキューブを解きたい」という思いの方が強いのだ。
様々な動画を観てスピードキューブのセオリーを検証し、毎日100回を超える計測をこなす。
これは誰かに言われてやっていることではなく、自ら「日課」として行っていることだ。
いい年になってまだガキみたいなことをやっているのかと思われるかもしれないが、毎日のように課題が出てくるのだから仕方が無い。
私は未だに世界一にはなれていないのだが、それでも自分の中では「まだまだ努力が足りないからだ」と考えている。
そう考えてスピードキューブに取り組んできた。
そして最近、私のスピードキューブに対する姿勢と似たような考えをもって「仕事」に取り組む人を知った。
ストリートファイターの世界チャンピオンに輝いたことがあり、世界一ゲームで賞金を稼いだ男、梅原大吾(以下、ウメハラと記す)だ。
(以下、ものすごく長文ですが、スピードキューブの世界にたずさわる人なら絶対読んで欲しいです)
ウメハラの名前は昔から知っていた。
私は格闘ゲームがあまり得意ではないが、上手い人のプレイを観るのが大好きで、しばしばネット上でゲームのスーパープレイを探している。
ある日、「背水の逆転劇」と題されたスーパープレイ動画をみつけた。
ストリートファイターIIIの世界大会で、日本チャンピオンとアメリカチャンピオンの対戦だった。
日本チャンピオンが操作するキャラクターの体力ゲージは、残りわずか。相手が一撃でも攻撃すればKOされてしまう。
プレイヤー、観客、共に緊張する状況。そんな中、アメリカチャンピオンは必殺技を繰り出した。
果たしてー
まるで奇跡でも起きたかのように、日本チャンピオンは全ての攻撃をブロックし、一転攻勢。なんとそのまま逆転勝利をおさめたのだ。
その神懸かり的なプレイに会場は白熱。動画を観ている私もつい熱くなった。
その時の日本チャンピオンが、ウメハラだったのである。
ウメハラは格闘ゲームにおいて、「勝ち続けて」いる。ただ勝つだけでも大変なことであるのに、ずっとトップレベルの成績を収め続けている。
もちろん、最強のウメハラでさえも負けてしまうことがある。
しかしながら、ウメハラは敗北したところでそれに対して卑屈になることが無い。むしろ、その敗北に反省点を見いだし、次の勝負に備えるのだ。
そしてそれを毎日のように続けている。単に「ゲームが好き」というだけでは至れない境地だ。
もちろんウメハラにもスランプはあった。
格闘ゲームから離れて、麻雀のプロになろうと考えていた時期もあった。
しかしながら、彼は格闘ゲームを離れてなお、誰よりも強かった。
2007年にストリートファイターIVが発売され、友人の勧めでプレイしてみると、ウメハラは面白いように勝つことができたのだ。
このときウメハラは、ゲームに対する迷いが無くなったのだ。
そんなウメハラは、格闘ゲームの大会を「お披露目の場」と設定している。
いつものがんばりを発揮するための場所なのだ。
というのも、ウメハラには日本大会で3連覇をしながら、4連覇をかけた大会で「優勝」を意識しすぎてしまい、ベスト8止まりとなってしまったという痛い想い出がある。
この出来事を、ウメハラは「勝つことが目的と化していた」と振り返っている。
以降、ウメハラは大会を「目的」とせず、「目標」として設定している。
そしてなにより、前述の通り普段の成長に重きを置いているのだ。
たとえばスピードキューブなら、大会はいつもの練習を発揮する場所なのだ。
ここで、「○○より速いタイムを出す」とか「世界記録を出す」とか、そう考えてしまうとどうもうまくいかないものである。
むしろ「いつも通りやろう」「今の研究の成果はコレだ!」と考えて揃えることで、案外いいタイムが出たりするのだ。
そして大会を目標として、日々練習を続ける。
手前味噌になるが、これが私のスピードキューブにおける基本姿勢であり、この点においてウメハラと一致していると感じるのだ。
そういえばかつて「自分はタイムが遅い。それなのに大会に出てもいいのだろうか」と考えていた人がいた。
これに対して私は、昔からずっとこう答えていた。
「もちろん大会は勝つこともうれしいけれど、それ以上に普段の力を披露する場でもある。だから、出場者のタイムの速さ遅さは関係ない」と。
そして、ルービックキューブに対して、私以上にウメハラのような姿勢で取り組む人がいる。
スピードキューブの世界的カリスマ、中島悠である。
彼は2007年に世界大会で優勝して以来、様々な競技で世界のトップに立ち、スピードキューブ界を牽引。
彼のスピードキューブ動画は世界中で再生され、実に合計3000万回以上の再生数を博している。
現在の世界記録保持者であるフェリックス・ゼムデグスも尊敬するスピードキューバーなのだ。
そんな彼の凄い所は、やはり「どんな競技でも世界トップクラスに立っている」ことだ。
「世界キューブ機構」には「Sum of Ranks」という、全競技の順位を合計(不参加・計測不能競技は最下位として計算される)したもののランキングがあるのだが、
そこで中島氏は平均タイムのランキングにおいて、2位に400近い差を付けて1位になっているのだ(2014年2月現在)。
では、どのようにして彼は世界トップになったのか。もちろん優れたセンスもあるのだが、なにより練習量が違うのだ。
ひとつの競技があれば、それを大会が近づくまで、出来る限り練習をする。これを大会毎に行っているのだ。
そして、その練習をこなしてきた競技で結果を残すのだ。
その結果、ほぼ全ての競技で世界50位以内に入っているのだ。
もちろん氏にも得手不得手はある(たとえば多分割キューブは得意だが、ブラインド競技はやや苦手であるように思える)が、それでもなお2位との差をぶっちぎっているのだ。
だが、中島氏の強みはこれだけではない。大会に臨む姿勢にも、彼の強さが現れているのだ。
中でも一番印象に残っているのが、2007年世界大会決勝である。
私は当時15歳で、ルービックキューブをだれよりもはやく解きたいと思って練習した結果、「もしかしたら世界一になれるかもしれない」という思いに支配されていた。
その結果、僕はすっかりガチガチに緊張してしまった。無理も無い、決勝に残っているのは2005年の世界大会優勝者、準優勝者、日本の第一人者、世界記録保持者もいた。
この中で優勝できるとしたら、それは私にとって最大の幸福であった。
だが、それを意識すればする程、力みが出てしまった。日本チャンピオンになってなお、迷いを振り払えなかったのだ。
私は待機する中島氏に、思わずこう訊ねた。
「やっぱり、目標は優勝ですか?」
今思うと当然な質問であったが、それに対して彼はこう答えた。
「いや、優勝とか記録とかはどうでもいい。いつも通りやるだけだよ」
このことばを聞いたとき、私は「ああ、きっと中島さんはいいタイムを出すだろうな」と思った。
キューブを揃える前から負けた気がしたのだ。
絶対的な自信と、悠然とした態度。
たった一つしか年が変わらないにもかかわらず、ひとまわり大きな者のように見えたのだ。
結果はご存じの通り。僕が3位で、彼が優勝したのだ。
あれから6年と半年が立つが、未だに中島氏が日本のスピードキューブ大会で上位に立つのを鑑みると、
きっと氏は今なお「いっぱい練習してきたのだから、いつも通りやるだけだ」と考えているのだろう。
中島氏にとって、大会はあくまでも目標であり、勝つことだけを考えて練習しているのではないのだ。
彼は16歳の若さで、ウメハラが悩み続けてようやくたどり着いた境地に達していたのだ。
私は2人のように世界一になった経験は無い。世界2位の記録を得たことはあるが、「世界新記録」は未だ経験が無い。
もちろんそれを後悔したことはあるが、一方でまだ自分にもチャンスがあるのではないかと考えている。
私も先日22歳になった。まわりを見れば社会人になる人が多い中、まだまだ学生を続けてスピードキューブの奥義を極めたいなどと思うとかアホかと思われるかもしれない。
ただ、ここまで付き合ってきて、しかも自分の人生の中で重要なものとなったからには、いつまでもスピードキューブには関わり続けたいと考えている。
伸びしろが完全に無くなるまで、あるいは大会を開催しなくなるまで(そんな時は来て欲しくないが)、私はスピードキューブの練習を欠かさず、また大会に出場し続けるだろう。
ここまで読んで、「自分には勝ち続けるなんて無理だ」と感じる人もいるかもしれない。
ウメハラも自著で「99.9%の人は勝ち続けられない」と書いていた。
しかし、先ほども書いたように、あくまで勝つことを「目的」にするのではなく、「目標」とすると、むしろ「成長すること」を楽しめるようになる。
そしてそのために、まずは目先の目標をクリアするのが大切である。
たとえばルービックキューブの完成タイムが20秒を切れない人は、F2Lやブロックメイキングの研究をするとグンとタイムが縮む可能性があるのだ。
最後に。
私はこのスピードキューブを通して様々な経験を得た。
それは他の事にも生かせることであったし、なにより「自信」にもなった。
ウメハラが格闘ゲームに感謝するように、私もまたルービックキューブに感謝しているのだ。
それはきっと中島氏も同じ心境であろうと、私は思うのだ。
この記事を読んで「勝ち続けること」に興味を持った方は、是非ともこの2冊を読んで欲しい。
ウメハラから学ぶことはたくさんあると、私は感じるのだ。
特に「勝ちたい」と思っている人は読んでみると、それ以上に大切なことに気がつけるはずだ。
ちなみに「勝ち続ける意志力」はウメハラの自伝的な内容で、「勝負論」はより実践的な内容となっている。